カケラレ

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10年ほど経つだろうと思う。

大学を卒業してから
しばらく母のいる実家に戻っていた時期がある。
そのとき人生の大きなねじれを経験した。


左耳に話しかけてくる声がする。
姿の見えない声たちが囁きあい
僕の行動を監視しているのだ。
数ヶ月の間、寝ても覚めても声たちはつきまとい
僕は疲れきっていった。
いつしか声たちに抗うために
こちらから言葉をかけるようにもなっていた。

ある日の夕方、仰向けに寝ていると
4人の暗い影に手足を押さえつけられた。
最後に現れたひとりが
動けない僕の足元の方からゆっくりと近づいてきて
「お前は何者だ? お前は何者だ?」
と繰り返す。
火箸のようなものを手に持ち
額にある第三の目へと近づけてくる。

「お前は何者だ? お前は何者だ?」
と追い詰められた僕は
「○○○○○○○だー!!!」
と思いがけない名前を大声で叫んで
影たちを振り払っていた。
とある神社の祭神の名前だった。


大きな声に驚いたのだろう。
しばらくして母が部屋にはいってきて
「誰と話しているの?」
とそばに座った。
うまく説明ができなくて泣いていると
母のほうの様子が変わってきた。

目を閉じた顔が大きく膨らんだようになって
ぼんやりと光っている。
顔つきも男の人のように変わってしまった。
「英明、何を見てるんや? そんなもんおらんぞ」

声も話し方も別人のようになってしまった。
僕の有様を見たショックで
母の頭がおかしくなったのだと思った。

動転して、そのあと言われたことは
なんとなくしか覚えていない。
ただ、言われたことに対してひとつひとつ
「わかった! わかったから!」
と返事をしていたような気がする。
母がおかしくなって喋っているのだと思い
体を揺すったり、大声で母のことを何度も呼んだり
泣きながら謝ったりした。

その間も冷静な自分がいて
この人はなんでこんなに光っているんだろうと
思っていた。
この人の言葉なら信頼できると思っていた。


母のことを抱きしめて泣いていると
頭がゆっくりと揺れて光が静かに抜けていった。
母はいま目を覚ましたばかりのように
「どうしたの? なんで泣いてるの?」
とぼんやりとしている。

頭が変になったと思って
どうしようかと思ったといういきさつを話したが
まったく覚えていないという。



その出来事をきっかけに
僕を悩ませていた声も気配も消えていった。

完全な入神状態を見たのも
見守ってくれている霊からわかりやすく叱られたのも
そのときがはじめてだろうと思う。
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